空気イスで月見 趣味ブログ

偏ってる系偏屈オタク 好きなものは好き

藍ルートに感じていた違和感の話

ASとASASの藍ルートをやっていて、なんか綺麗っぽい話だけどそうじゃなくね?となった話。

 

藍ルートは一言で言っちゃえばロボットが心を得て自我を得る感動物語なんですけど(雑)。そして私もめちゃくちゃプレイしてめちゃくちゃ泣きましたけど、あれこれ本当にそれだけかな??という話。ディスるつもりはないが、素直な感動を奪う文章ではあるので無理は方はここで回れ右してください。

 

1 前提として

まず美風藍は人間ではない。彼の所属事務所の社長が出資して作られたアンドロイドであり作中ではソングロボと呼ばれている。そして彼自身が自らの目指すアイドル像を「ボク自身がなりたいアイドル像っていうのはあまりない。ボクはみんなに求められるアイドルになりたいと思ってる。応援してくれるみんなが、美風藍というアイドルを作り上げるんだ。」[1]と説明している。

 

2美風藍は誰のことか

 美風藍にはモデルが存在する。所属事務所の先輩にあたる如月愛音という将来を期待された若手アイドルだったが、プレッシャーで心身を病み10年以上前に失踪している。如月愛音の存在を惜しんだ人間が3人いる。1人目が事務所の社長であるシャイニング早乙女だ。彼は稀有な才能が失われたことを嘆き、莫大な費用を投じてロボットにアイドルを務めさせる実験を始めた。2人目が実験を依頼された博士という人物。実は如月の叔父にあたり、家族とうまくいっていなかった博士だが如月とは親交があった。美風のビジュアルと声に如月のものを使うことを決めたのも博士である。3人目が美風と同じグループに所属するアイドル寿嶺二だ。寿は如月と同級生であり、如月の失踪を止められなかったことを悔やんでいる。3人は、博士の美風に対して如月愛音を投影し、理想を投影している。如月は早乙女にとって望ましい才能を兼ね備えた理想のアイドルだった。博士にとっては愛する甥であり、寿にとっても如月は理想のアイドルでかけがえのない友人であった。それぞれの理想像を投影して生み出されたのが美風藍である。まあ詳しいことはゲームやれば分かるけど、例えば嶺二は藍に会った時「アイネ」と呼びかけて、しばらく納得しない。博士もソングロボ計画に乗ったのは愛音の影を追ってだろう。

 ロボットである美風は歌やダンスの技術面では正確無比の高いクオリティを有しているが、感情を持たないことで生まれる軋轢や表現の乏しさの克服がゲームのシナリオの大筋となる。まずデビュー直前に彼は人間社会で生活するための教育を受ける。マナーやルールはもちろんだが、様々な文学や映像作品に触れ感想を述べる形での情操教育も施された。当然ロボットであるため、周りの人間が求めるような感想は出てこず美風は困惑し、それに対し人間たちは温かく見守る姿勢を見せていた。しかしストーリーの終盤、主人公春歌と藍自身が3人の支配を受けず活動を続けるために美風自身のシステムの一部を破壊する行動に出た時、周囲の反応は冷たい。明らかに彼らが求めていたような自我や欲求が表れているにも関わらず、彼らの理想を逸脱しようとする行動は彼らを困惑させた。

また反対に、彼は大きな自己犠牲によって主人公への愛を証明したが、自らを破壊するまでに至らなければ自分が人間と共に生きられることを証明できなかったといえる。事実、その後美風自身がアイドル活動を続けたい意志を知り、主人公への強い思いも理解した博士たちは独り立ちした美風藍を認めている。

この自己犠牲→承認のプロセスは明らかに、美風藍がアンドロイドだから求められていて、だからこそ逆に求められたものといいますか。アンドロイドなら、息切れすることも音を外すこともなく「完璧な」パフォーマンスを行うことができる。しかし周りの人間たちが求めたのは完璧さでなく、人間の持つような揺らぎやそれに依ったパフォーマンス性である。よって、完璧であるはずのアンドロイドは永遠に完璧なアイドルになることは本来ないはずだった。それが自己犠牲によって「人間らしさ」が発生し、彼は3人に認められるに至ったのである。ここには第一に、完全無欠なロボットに人間が勝てる部分が存在するという強い主張があると思う。3人は如月の代わりが欲しいと願いながらも代わりなどいないと考えていて、特に早乙女と寿はロボットにアイドルが務まるとは考えたくないのである。第二に、歩みよるのは人間でなくロボットの側であり、ロボットが完全性を失い、人間の目的に沿う形でしか存在し得ない。周りの人間たちの歪んだ支配欲を読み取ることができるんじゃないだろうか。美風藍は自立前も後も周りの人間の理想を体現する存在なのだ。そもそも美風が作られた理由は如月が周囲のプレッシャーによって失踪したことが原因であったが、周りの人間たちは同じようなことを繰り返している。この意味で本作はアイドルという周囲に見られながら表現をし続ける職業について、皮肉な視点を提示している。ここから脱け出すには、嶺二、博士、社長が藍と愛音は別の人間だと本当の意味で解る必要があるのではないかと思うけど、ASASでその兆しはあったので早くDolce Vita出してください。

 

 「みんなに愛されるアイドル」の「みんな」とは誰なのだろう。もちろん、彼は彼のファンを想定して発言しているだろう。そして、周りの人間たちも含まれるだろう。美風藍を開発し、作ったのは周りの人間たちであり、現在のような完璧でないアイドル像へ導いたのも周りの人間たちである。だとするならば、美風のファンたちは彼の何を見てかわいいと発言しているのかというと、彼の周囲の人間が投影した像とファン自身が投影する美風藍像と言えるだろう。確かに公式プロフィール通り、「見た目は綺麗で可愛いが、言動はさっぱり可愛くない。」[4]のである。さらにうたプリが複雑なのは、アイドルたちが「実在」しているとオタクが信じていて、その裏話も表舞台も全ての「物語」をオタクたちが共有しているところだと思う。つまり、オタクたち、全部わかった上で「感動」している。これは輪をかけてグロテスクじゃないか。

 

一応もう一回弁解しておくけど、うたプリに恨みがあるとか社長が嫌いとか全然そんなことはないです。そうじゃなくて、AIと人間みたいな割と新し目な(新しくはないか?)設定で人間模様を描く乙女ゲーを作ってみたらめちゃ面白いけど、AIと人間の歩み寄りの限界も垣間見えますねと言いたい。逆にそこまで書いてるゲームライターさんはすごいと思う。あとASASで前進の兆しが見えるのもすごいと思うから早く先を見せてほしい。

Dolce Vita発売いつですか?

 

 

[1] 電撃Girl’sStyle編集部『うたの☆プリンスさまっ♪ 5th Anniversari Book』KADOKAWA、2016年、124p

[2]うたの☆プリンスさまっ♪ キャラクター」うたの☆プリンスさまっ♪公式ホームページ https://www.utapri.com/character.php (2022年11月13日閲覧)

[3] 菊地浩平『人形メディア学講義』河出書房新社、2018年、310-311p

[4]うたの☆プリンスさまっ♪ Debut キャラクター」うたの☆プリンスさまっ♪ Debut 公式サイトhttps://www.utapri.com/game/debut/character_ai.php (2022年11月13日閲覧)